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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(オ)861号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人松本昌道、同正田茂雄、同川名照美の上告理由第一点及び第二点について

所論の本件差戻判決が所論の事項につき原審の判断を拘束するものとはいえないから、原審において本件第一倉庫が建物の区分所有等に関する法律(昭和五八年法律第五一号による改正前のもの。以下同じ。)にいう専有部分に該当するか否かについて判断したことに所論の違法はなく、また、記録によつて認められる本件訴訟の経緯に照らすと、原審が所論の措置をとらなかつたことに所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点について

一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である(最高裁昭和五三年(ワ)第一三七三号同五六年六月一八日第一小法廷判決・民集三五巻四号七九八頁、同昭和五五年(オ)第五五四号同五六年七月一七日第二小法廷判決・民集三五巻五号九七七頁参照)。

これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、(1) 本件倉庫は、本件建物の一階ロビー及びこれから電気室に通じる廊下の北側に位置し、通路に面する側は壁及び扉などにより仕切られ、その余の三面は壁によつて仕切られた本件建物の部分であり、床から天井までの高さは約二・八九メートルあり、倉庫として利用されている、(2) 本件倉庫は床面積一八・五二平方メートルの本件第二倉庫とその余の本件第一倉庫から成り、両者はコンクリートブロックで床から天井まで仕切られている、(3) 本件第一倉庫内の入口近くには、本件建物の共用設備である電気スイッチ及び積算電力計の配電盤、換気、汚水処理及び揚水ポンプなどの動力系スイッチ並びに汚水マンホール及び雑排水マンホールが設置されており、また、本件第一倉庫の床面から約二・〇五メートルの高さのところには電気、水道等のパイプが張りめぐらされ、右パイプは本件第二倉庫の天井にも配管されている、(4) 本件第一倉庫内の前記パイプ以外の共用設備自体と右スイッチ等の操作、マンホールの清掃等のために必要な場所の本件第一倉庫内に占める部分は、本件第一倉庫の床面積及び空間に比して極めて僅少な部分にとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、右各種スイッチ操作のため本件建物の管理人が必要とする一日三回程度の右部分への出入や右マンホールの清掃のため出入によつて本件第一倉庫の右のような排他的使用に格別の制限ないし障害が生ずるものではない、(5) 本件第一倉庫及び本件第二倉庫の天井に設置されている前記電気、水道等のパイプの存在も、本件第一倉庫及び本件第二倉庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずるものではない、(6) 本件第一倉庫及び本件第二倉庫を排他的に使用することによつて、その内部に設置されている前記共用設備の保存及び他の区分所有者らによるその利用に影響を及ぼすこともない、というのである。右事実関係のもとにおいては、本件第一倉庫及び本件第二倉庫が、建物の区分所有等に関する法律にいう、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる建物部分であり、建物の専有部分として区分所有権の目的となるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

論旨は、独自の見解に基づき、又は原審における主張立証を経ていない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧 圭次 裁判官 大橋 進 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭)

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